小学館の児童書編集者がユポを選んだ理由
目次
1.「本って、読むだけじゃない」ー 遊べる本を作り続ける理由
笠井さんが幼児書の編集に携わるようになったのは2014年のこと。女性ファッション誌の編集部を経て異動した当初、「こんなにたくさんの種類の紙を使うんだ」と驚いたそうです。異動をきっかけに紙の世界の豊かさに触れたことが、素材そのものへの関心につながりました。

笠井さん:当時はデジタルコンテンツの台頭が話題になり始めた頃です。そんな時代にも紙の本には、まだまだできることがあると感じていました。手を動かして形が変わる、匂いがある。そういった素材の良さを、どうやったら子どもたちに伝えられるか。紙の本だからこそできることをやりたい、という気持ちが強くありました。
その思いを形にしたのが、紙で遊べるあらゆる体験を詰め込んだシリーズ『ぺぱぷんたす』でした。「やぶる、ちぎる、おる、ねじる。素材そのものを遊び尽くす体験型の本」というコンセプトで、現在8冊目の制作が進んでいます。

2. ビンゴカードに求めた4つの条件 ー 子どもの手の特性に合わせた素材選び
紙の可能性を追い続ける笠井さんが、編集を担当した本に『コんガらガっち かぞえてすすめ!の本』があります。

企画の出発点は、読者が参加しながら発見を楽しめるインタラクティブな作品を生み出している作家、ユーフラテスさんのアイデアから。「勉強」ではなく、遊びの中で自然に数・数字・足し算に親しんで欲しい。そんな思いで、本の世界とリンクしたビンゴカードを使って楽しめる形を模索しました。物語に登場するものや外出先で見つけたものをチェックしてビンゴで遊ぶ仕掛けは、「読む本」と「遊ぶ体験」を一冊に融合させたものです。
付録のビンゴカードは1枚を何度も折り込んでは戻して使う設計。アイデアが固まったとき、次の課題として浮上したのが素材の耐久性でした。

笠井さん:雑誌の付録と違って、単行本の付録は長期間、繰り返し使われます。普通の厚紙では耐久性が足りないと感じていました。特に意識したのが、子どもの手の特性です。子どもの手は温かくて汗ばんでいて、想像以上に紙にダメージを与えます。
通常の紙やボード紙では、繰り返しの折り曲げで折り目から傷んだり、湿気を吸ってヨレが生じたりしてしまいます。子ども向け付録として求められる条件を満たせる素材を探したとき、候補として挙がったのがユポだったのです。

【ビンゴカードに求めた4つの条件】
●耐水性 ― 子どもの手の特性上、水濡れや湿気に強いことが大前提でした。
●破れにくさ ― ビンゴカードは折り畳んで何度も使うもの。
普通の紙では折り目から傷み、繰り返しの使用に耐えられません。
●形状回復性 ― 子どもが握り潰したり丸めたりしても、形が戻りやすい点も重要でした。
●両面印刷の品質 ―ビンゴカードに一般的に使われるボード紙は片面がグレーの場合があります。
ユポは両面ともに発色が均一で、色味を正確に再現できました。

「他に代わるものがあれば、コストの差でそちらを選ぶかもしれません。でも企画に必要な条件を満たすもので、ユポに代わるものはありませんでした」と笠井さんは言います。
3. 作家が認めたユポならではの色彩の再現性
素材の選定にあたって、笠井さんと作家の間では早い段階で結論が出ていたそうです。
西野:作家さんご自身がどういった点でユポを評価されたのか、ぜひ聞いてみたかったです。

笠井さん:作家のユーフラテスさんと話すうちに、『これはユポ一択だよね』という感覚になりました。ユーフラテスさんの作品は色合いが特徴的で、素材によっては色が沈んでしまうことがあります。ユポでは色がきれいに出て、『自分の意図した色味が再現できた』と喜んでいただけました。
また、ユポは両面ともに印刷品質が均一に保たれるメリットもありました。

4. 製造現場の試行錯誤 ー 抜き加工などの調整
採用が決まってからも、製造工程での調整が必要でした。ユポは一般的な紙と特性が異なり、加工時にいくつかの工夫が求められます。
笠井さん:ユポは紙より刃が通りにくいので、断裁時は積載枚数を少なくして断裁を行うそうです。抜き加工では、「留め」と呼ばれるつなぎ目部分の設計を見直す必要がありました。止め幅を通常より狭くして、止めの数を増やすことで、強度の強いユポでもちぎりやすくなるように工夫しました。

このような細やかな調整は必要ではありますが、耐水性があって湿気の影響を受けにくいという何にもかえがたい魅力があります。付録や型押し用途との相性がとてもいいので、小学館では雑誌『幼稚園』の付録など、他の商品でもユポが採用されています。
紙とは異なる素材特性に向き合い、工程ごとに最適解を探った製造現場での地道な検証と調整が、子どもが繰り返し楽しめる商品を支えていました。

5. SNSの映像体験を、紙の遊びへ。2年間の試行錯誤

笠井さんがユポを採用したもうひとつの商品が、『おはよう ぷにょ』です。水を垂らして目をのせると、まるで水が生きているように動きだす、仕掛けシート付きのこの絵本は、SNSで拡散された一本の動画が出発点でした。ハスの葉の上で転がる水滴に目玉パーツを付けた動画に着想を得て、投稿者に連絡し、許可を取得。『ぺぱぷんたす』の1ページ企画として掲載したところ、大きな反響を呼んだのです。
笠井さん:この動画のおもしろさを、子どもが自分の手で再現できるものにしたい。デジタルで拡散された体験を絵本に落とし込む----本だからこそできることをやりたいという思いと、自然に重なりました。

しかし『ぺぱぷんたす』の1企画を1冊の本にするまでには、約2年を要しました。ボードブック、ニス塗り、フィルム貼りと何パターンも試しましたが、水滴が潰れる、端部から染み込む、カビのリスクといった課題がクリアできず、最終的に「本」ではなく、「シート」というかたちに切り替えました。それからも素材の検討は続き、最終的にたどり着いたのがユポ+PP貼りという仕様です。

笠井さん:PP加工をすることで、水滴の丸みと転がり具合が劇的に改善されました。ころころとシートの上で表情を変えながら自由にかわいく動くぷにょの姿に大満足です。コストや工程面では負荷のある仕様ですが、安全性と機能性を優先した結果、安心して世に送り出すことができました。
SNSで見た映像体験が、2年間の試行錯誤を経て子どもが手で触れて遊べる商品になったのです。幼児書の可能性を広げた商品となりました。
6. デジタル時代に、紙で遊ぶことの意味
スマートフォンやタブレットが日常にある中で、子どもの本離れは出版業界全体の課題です。笠井さんは当初、デジタルへの対抗意識があったと振り返ります。
笠井さん:最初は、デジタルに負けないという気持ちで作っていました。でも今は、お互いのいいところをうまく使いながら、つなげられることが一番だと思っています。体験の伝達は動画が有効ですし、実際に触って遊ぶ体験は、紙やユポのような"手で扱う素材"だからこそ生まれる。競争ではなく、補完・補充。広がっていく関係です。
子ども時代に「本で遊んだ」記憶が、将来の読書体験の入り口になるという考えもあります。

笠井さん:手を動かす喜び、失敗しながら試行錯誤できる体験は、紙ならではのものだと思っています。そういう記憶の片隅に残るような本を、これからも作っていきたいです。
子どもの使用環境を起点に最適な素材を選び、製造工程での細かな調整を重ねる----その積み重ねが、笠井さんが追い続ける「手で遊べる本」づくりを支えているのです。
7. 素材を「使う現場」を深く知ることで生まれる共創関係
西野:ユポを採用してくださっているお客様が、どんな思いで素材を選び、どう使っていらっしゃるか。「共創ストーリー」という企画は、それをお聞きし、伝えていきたいという想いから生まれたものです。

西野は、素材を提供する側として改めて感じたことがあると言います。
西野:ユポが採用していただけるのは、この素材だけが実現できるものがあるからだということを、改めて感じました。
だからこそ私たちも、ユポをお使いいただいた商品を手に取って実際に遊んでみて、その感触をちゃんと理解した上でお客様と話せるようにしていきたいですね。小学館さんとお仕事をさせていただいてから、書店を訪れるときも、「この本はなぜこの紙なんだろう」と考えながら棚を見るようになりました。探求する視点を持って、これからもお客様と一緒に考えていければと思っています。
クリエイティブ素材として、ユポが「使われる現場」を理解することの重要性を、改めて実感する取材となりました。

●株式会社 小学館
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